hirax.net::Keywords::「透ける」のブログ



2008-01-21[n年前へ]

「水に濡れた白服が透ける理由」と「白色顔料の歴史」 

 「なぜ白い服は水に濡れるだけであんなにも透けるようになるのか考えてみた」という日記を読んだ。着目点は素晴らしいのだけれど、残念ながら正解には辿りつけていなかった。リンク先に書いてある考察通りであれば、正面から眺めた白服はスケスケの透明に見えてしまうことになる。しかし、現実にはそうではない。


図解 図解  まず、白服が透けずに「白色・照明光色」に見える理由は、白服を形作る「繊維」と「空気」の屈折率が異なることにより、白い服(を形作る繊維)の中に進入した光が散乱し、(その下に到達せずに)白服から出てくる光が多くなるからである。繊維と空気では、屈折率が1.5程度と1.0と大きく異なるため、繊維・空気の境界で光が反射・屈折を繰り返すのだ。


図解 図解  しかし、白い服が水に濡れたときには、状況が異なってくる。水の屈折率が1.3強であるため、繊維と水の間の屈折率差が小さくなり、繊維と空気の間で反射・屈折があまり生じなくなってくる。その結果、照明光が白い服をそのまま通過して、服の下に到達・反射した後に、また白い服を透けて外に出てくる…ということになる。


 だから、屈折率が1.5程度であるサラダオイル、つまり繊維と同じ程度の屈折率の液体を白い服に振りかけてみれば、白い服がスケスケ透明服に大変身してしまうことになる。だから、そうなっては困る白い水着などでは、繊維を中空にすることで、水に水着が浸かっても繊維中に空気と繊維の境界が保持されることで光を散乱させたり、あるいは、水より屈折率がさらに高い白色顔料を繊維中に混ぜることで、光が繊維中で散乱するように工夫するのである。



 ところで、たとえば油絵を考えたとき、顔料は油に包まれていることになる。青や赤といった「色をつけるための顔料」ならば、必ずしも顔料と油の間で反射・散乱などは生じなくても良い。それどころか、顔料と油の屈折率が近いほうが都合が良いことが多い。そこで、顔料を包み込む媒体として、(色顔料と同じ程度の)屈折率が高いものが徐々に使われるようになった。


 しかし、白色顔料の立場から考えてみると、これはマズイ事態である。なにしろ、顔料と油の間で反射・散乱を繰り返さなければ、「白色」が生じないからである。そういうわけで、ずっと昔には屈折率1.5程度の白色顔料も使われていたが、現在では屈折率が2.7ほどもある酸化チタンなどが白色顔料として使われることが多い。


 …というのが、「水に濡れた白服が透ける理由」から「白色顔料の歴史」も透けて見えてくる、という話である。ふと目にする色々なものは、すべて繋がっている…という、そんな話だ。残念ながら、水に濡れた白服を目にしたことはないのだが。

図解図解図解図解






2008-05-18[n年前へ]

ブラジャーが透けない「モカ茶のヌードライナー」と「シャツの色」 

 「ブラジャーはシャツの色と同系色でないと透けて見えてしまう」と聞いたことがある。「ブラジャーを着けている部分(A)と着けていない部分(B)に色の差があると、シャツの上からブラジャーが識別できる」ということを「透けて見える」というのだろうか。だとすれば、確かに、ブラジャーとシャツが同系色であればAとBの色差が小さいために、ブラジャーが識別できない=透けて見えることはない、ということになる。

 青山まりの「ブラの本。」を読み直していると、こんなことが書いてあった。

 どんなにカラフルな色のブラジャーを着けても、その上にモカ茶のヌードライナーを着れば、表に透けません。
  青山まり 「ブラの本。」 p.121
   なぜ、「モカ茶」のヌードライナー(スリップ)の下のブラジャーは見えづらいのだろう? それは一体なぜだろうか。

  モカ茶はこんな色(Spectrum Color Conversion)である。RGBで表現して見ると、RGB = (1.0,0.3,0.3) * 255という感じだろうか。モカ茶色のヌードライナーの下に、たとえば赤い色RGB = (1.0,0,0) * 255のブラジャーを着けた場合の色を、大雑把に単純に近似すると( a*(1.0,0.3,0.3) +(1-a)^2 * (1.0,0.3,0.3) × (1.0,0,0) ) *255 という具合になりそうだ。ここで、aやbはヌードライナー(スリップ)が(その内側を隠す割合を示す)隠蔽率・着色度を示す係数である。端的に言えば、aはヌードライナー中での光散乱を示す係数だ。

 この式を眺めて見ると、まず、モカ茶色のヌードライナーの下の赤い色や黄色い色のブラジャーは識別できそうにないことがわかる。それは、モカ茶色に緑色や青色の成分がそのそも少ないために、ブラジャー中の赤色光の量が小さくない限り(上記式による)外から見た色は大差なくなってしまうからである。

 では、青色のブラや緑色のブラならどうだろうか。適当な値を入れて見ると、たとえばこんな感じになる。

 色の違いは微妙で「ブラが透けて見えない」とも言えそうでもあるし、「微妙にブラが透けて見える」とも見える。結局のところ、よくわからない、としか言いようがない。
 定量的なデータが入手できた時にでも、「モカ茶のヌードライナー」と「シャツの色」と「ブラの色」の「見え方」について、真面目にシミュレーションでもしてみることにしようか。


spectrum






2008-07-29[n年前へ]

「モカ茶の下着」は透けて見えることがない!?の実験 

 ブラジャーが透けない「モカ茶のヌードライナー」と「シャツの色」で書いたように、「ブラジャーはシャツの色と同系色でないと透けて見えてしまう」という話をよく聞きます。また、「カラフルな色のブラジャーを着けても、その上にモカ茶のヌードライナー(スリップ)を着れば表には透けない」という話も読んだことがあります。そしてまた、これらと似たような話として「モカ茶の下着は透けない」といった話もよく聞くのです。

 これら3つの話は、似たようなキーワード「(肌色よりかなり濃い)モカ茶」と「透けない」が登場しますが、全く同じ話というわけでもありません。それはまるで、伝聞で広まっていく一種の都市伝説のようです。

 そこで、とりあえず「モカ茶の下着は透けない」かどうかを試してみました。と、いっても、「あくまで簡単な机上計算と机上実験で済む範囲」がhirax.netの守備範囲です。そこで、「腕に4種の色のテープを張り付け(右上の画像)、半透明のシートをその上に載せ、どの程度テープが透けて見えるか(右中の画像)の確認」をしてみました。肌の上に張られた「明らかに肌より明るい色から、明らかに肌より濃い色まで濃さの違うシート」が、薄いピンク色の半透明シート上からどのように見えるかを確認してみたのです。

 意外?なことに、肌色より少し濃いくらいの「パッチ」が全然透けて見えないという、俗説にかなり沿った結果になりました。しかも、「(肌色よりかなり濃い)モカ茶」でも、あまり透けて見えないのです。ちなみに、右の画像は一番最初の画像を、L*(=感覚に比較的素直な明度軸)で示した三次元グラフです。

 普通に考えると「下着が透けて見えない=下着部分がそれ以外の部分と区別できない」のは、「下着が肌色に一番近い色」のときに思えます。そして、下着が肌の色より濃くても・薄くても、同じように「透けて見えてしまう」のではないか、というのが一番「ありそう」な話です。けれど、(精度なんか全然ありませんが)机上実験の結果は違うのです。肌色より明るい色の下着は「とても透けて見える」のに、肌色より暗い色の下着は「あまり透けては見えない」のです。

 というわけで、今日は「モカ茶のインナーの不思議」 が気になって気になってしょうがない……のです。

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